映画に投影されるアメリカ社会

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1、映画に投影されるアメリカ社会はじめに映画は世界各国でつくられているが、最も人気が高く影響力があるのはハリウッド映画である。ハリウッド映画は一般的にストーリーがわかりやすく、ハッピーエンドが多いと言われる。ところが60年代後半から70年代前半を代表する作品のほとんどがアンハッピーエンドの作品である。なぜこの時期に作られた映画は陰鬱な内容が多いのだろうという疑問がこの論文の出発点だった。そしてハリウッド映画に描かれることのなかったマイノリティが描かれるようになったのもこの時期と重なるのである。映画製作には

2、莫大な金がかかる。資金を回収するには多くの観客を集めなければならない。したがって映画会社は観客の価値観や趣味嗜好に合わせたものを作ろうとする。その観客の大半は、知識人ではなく一般の大衆である。そのため映画は一般大衆が受け入れることのできる社会通念が投影されていると考えられる。60年代から70年代にかけて、アメリカ社会はどのような変化があり、それがどのように映画に投影されているのだろうか。この時代を中心に取り上げ、ハリウッド映画と社会の関わりについて考察していく。第1章60年代以前のハリウッド第1節　ハ

3、リウッド史世界の映画の歴史は、1894年に始まり、ハリウッドで映画を撮るようになったのは1907年頃からのことである。1年中雨が少ないハリウッドは映画製作にとって好条件で、次々と撮影スタジオが設立された。ハリウッドという言葉は単なる地名でなくアメリカ映画産業の代名詞となっている。世界の映画界はフランスとイタリアがリードしていたが、第一次大戦によってフランスとイタリアの映画産業が大打撃を受けたことによってハリウッドが一挙に世界のトップに躍り出た。　ハリウッドの歴史は、次のように区分される。1940年代ま

4、でがオールド・ハリウッドまたはクラシカル・ハリウッドと呼ばれ、それに対して1950年代以降がニューハリウッドと呼ばれる。その中でも60年代半ばから70年代末にかけてが、ハリウッド・ルネサンスまたはニューハリウッド第1期、そして80年代以降がニューハリウッド第2期となる（赤木、2003：58）。第2節50年代ハリウッド1950年代のアメリカは冷戦の時代とはいえ国内は豊かで、静かな時代だった。多くの人々が生活水準を上げ、物質的に恵まれた生活を送るようになった。アメリカは世界一豊かな国であり、アメリカ的生活

5、様式は理想とされた。50年代のアメリカ映画の特徴は、明るく豊かなアメリカを描いた映画が多いということである。9そんな時代を象徴するスターとしてマリリン・モンローやオードリー・ヘップバーンが挙げられる。『巴里のアメリカ人』『雨に唄えば』などといったミュージカル映画が多いこともこの時代の特徴である。50年代のハリウッドは赤狩りの影響が色濃く残っていた。赤狩りとはソ連との冷戦下で、ジョセフ・R・マッカーシー上院議員が、アメリカ国内の共産主義者を弾圧した事件である。映画関係者に対する追求は最も厳しかった。社会

6、や政治への批判を映画の中に込めただけで共産主義と決め付けられ、弾劾された。映画人たちはハリウッドから追放されることを恐れ、政治や社会に触れることを避けて豊かなアメリカを誇示するような作品を作ったのである。第1章60年代アメリカ社会の「革命」第1節　「革命」のはじまり1960年代はアメリカ史上他に比類のない特別な時代である。｢革命｣といわれるほどの大きな変化をもたらした時代であった。60年代の革命のきっかけとなったのは、まず公民権闘争である。そしてそこから分岐したり影響を受けたりして発展した、様々な運動

7、や現象が続いた。社会制度だけでなく人々の考え方、価値観までもが大きく変化した。　1950年代の豊かさは、本当はアメリカ社会に潜む様々な問題を覆い隠しているだけであった。60年代に入り、マイノリティに対する差別や、精神的な豊かさの喪失などの問題に対して若者達が声をあげるようになった。そしてアメリカ社会を根底から変えるほどの混乱と興奮が約10年間続いていく。1950年代の現状満足的なムードを最初に揺るがしたのは、黒人の人種差別制度撤廃を求める公民権運動（civilrightsmovement）である。当時

8、のアメリカは日常生活のあらゆる場面で黒人に対する差別が残っていた。アメリカ南部から始まった公民権運動は50年代後半から活発化し、60年代に全国的に広がった。第2節価値観の転換公民権運動は保守的な白人からの激しい抵抗に遭いながらも進められた。リベラルな白人も多数参加するようになった。そして1964年に公民権法、65年に投票権法の成立を果たす。しかし制度上の平等が整えられただけでは意味がなかった。制度的な差別がなくなっても黒人の生活は相変わらず貧しいままだっ