05年日本文学试卷(含答案)

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1、2005年上半年上海市高等教育自学考试日本文学选读（0612）试卷一、次の文章を読んで後の問いに日本語で答えなさい。（25点）　　五十歳を越えた内供は、沙弥の昔から、内道場供奉の職に陞った今日まで、内心では始終この鼻を苦に病んで来た。勿論①表面では、今でもさほど気にならないような顔をしてすましている。これは専念に当来の浄土を渇仰すべき僧侶の身で、鼻の心配をするのが悪いと思ったからばかりではない。それよりむしろ、自分で鼻を気にしていると云う事を、人に知られるのが嫌だったからである。内供は日常の談話の中に、鼻と云う語

2、が出て来るのを何よりも惧れていた。　　②内供が鼻を持てあました理由は二つある。――　一つは実際的に、鼻の長いのが不便だったからである。第一飯を食う時にも独りでは食えない。独りで食えば、鼻の先が鋺の中の飯へとどいてしまう。そこで内供は弟子の一人を膳の向うへ坐らせて、飯を食う間中、広さ一寸長さ二尺ばかりの板で、鼻を持上げていて貰う事にした。しかしこうして飯を食うと云う事は、持上げている弟子にとっても、持上げられている内供にとっても、決して容易な事ではない。一度この弟子の代りをした中童子が、嚏をした拍子に手がふるえて、

3、鼻を粥の中へ落した話は、当時京都まで喧伝された。　　――けれどもこれは内供にとって、決して鼻を苦に病んだ重な理由ではない。内供は実にこの鼻によって傷つけられる自尊心のために苦しんだのである。　　　（中略）　　――前にはあのようにつけつけとは哂わなんだて。　内供は、誦しかけた経文をやめて、禿げ頭を傾けながら、時々こう呟く事があった。③愛すべき内供は、そう云う時になると、必ずぼんやり、傍にかけた④普賢の画像を眺めながら、鼻の長かった四五日前の事を憶い出して、⑤「今はむげにいやしくなりさがれる人の、さかえたる昔をしのぶ

4、がごとく」ふさぎこんでしまうのである。――内供には、遺憾ながらこの問に答を与える明が欠けていた。　　――人間の心には互に矛盾した二つの感情がある。勿論、誰でも他人の⑥不幸に同情しない者はない。所がその人が⑦その不幸を、どうにかして切りぬける事が出来ると、今度はこっちで何となく物足りないような心もちがする。少し誇張して云えば、もう一度その人を、同じ不幸に陥れて見たいような気にさえなる。そうしていつの間にか、消極的ではあるが、ある敵意をその人に対して抱くような事になる。――内供が、理由を知らないながらも、何となく不快

5、に思ったのは、池の尾の僧俗の態度に、この傍観者の利己主義をそれとなく感づいたからにほかならない。（一）次の文中の言葉に読み仮名をつけなさい。（1＊5＝5点）渇仰(　かつごう　　　　)　　　　　　　　　　　　　喧伝(　せんでん　　　　　)供奉(　ぐぶ　　　　　　)　　　　　　　　　　　　　嚏　（　くしゃみ　　　　　）経文(　きょうぶん　　　)（二）次の問いに答えなさい。（2＊７＝14点）問　1　文中の①には、内供は「表面では、今でもさほど気にならないような顔をしてすましている」おもな理由は何か、文中の言葉で答えなさ

6、い。（40字以内）自分が鼻を気にしているということを人に知られるのが嫌だったからである問　2　文中の②には、「内供が鼻を持てあました」おもな理由は何か、文中の言葉で答えなさい。（40字以内）鼻の長いのが不便だった。この鼻によって傷つけられる自尊心のために苦しんだ。問　3　文中③には、「愛すべき」はどんな意味を含んでいるのか、文意に合致すると思われるものを次から二つ選び、○をつけなさい。（Ｃ、Ｅ）A　怨恨　　　　B　愛惜　　　　C　嘲弄　　　　D　憂慮　　　　E　憐憫問　4　文中の④には、内供が「普賢の画像を眺めな

7、がら、鼻の長かった四五日前のことを憶い出した」のはなぜか、書きなさい。（50字以内）普賢菩薩の乗っている白象の鼻はまさにかつての内供の鼻と同じく「紅蓮華の色」であったから。問　5　文中の⑤「今はむげにいやしくなりさがれる人の、さかえたる昔をしのぶがごとく」を現代日本語に訳しなさい。（50字以内）「今は非常にみすぼらしく零落してしまった人が勢い盛んであった昔を懐かしく思うように」ということである。問　6　文中の⑥の「不幸」と⑦の「不幸を切り抜ける」とは内供の場合、それぞれ何をさしているか、答えなさい。（20字以内）

8、（1）「不幸」―――　鼻が長い（2）「不幸を切り抜ける」―――　鼻を短くする問　7　引用文にはこの作品の主眼となる言葉が出ているがそれを抜き出しなさい。（15字以内）傍観者の利己主義（三）この作品をよく考えて次の問いに答えなさい。（2＊3＝6点）問　1　この作品の作者名とその所属の文学派名を書きなさい。（１）作者名―――　芥川龍之介（２）文学流派名―――　新思潮派問　2