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时间:2020-10-15
《信(手纸)----芥川龙之介--日语原版.docx》由会员上传分享,免费在线阅读,更多相关内容在教育资源-天天文库。
1、手紙芥川龍之介 僕は今この温泉宿に滞在しています。避暑する気もちもないではありません。しかしまだそのほかにゆっくり読んだり書いたりしたい気もちもあることは確かです。ここは旅行案内の広告によれば、神経衰弱にいとか云うことです。そのせいか狂人もばかりいます。は二十七八の女です。この女は何も口をかずにばかりいています。が、身なりはちゃんとしていますから、どこか相当な家の奥さんでしょう。のみならず二三度見かけたところではどこかちょっとじみた、の正しい顔をしています。もう一人の狂人は赤あかとのげ上った四十前後の男です。この男は確か左の腕に松葉の入れ墨を
2、しているところを見ると、まだ狂人にならない前には何か意気な商売でもしていたものかも知れません。僕は勿論この男とは度たびの中でも一しょになります。K君は(これはここに滞在しているある大学の学生です。)この男の入れ墨を指さし、いきなり「君の細君の名はおさんだね」と言ったものです。するとこの男は湯にったまま、子供のように赤い顔をしました。…… K君は僕よりもも若い人です。おまけに同じ宿のM子さん親子とかなり懇意にしている人です。M子さんは昔風に言えば、をしているとでも言うのでしょう。僕はM子さんの女学校時代にお下げに白いろをした上、を習ったと云うこ
3、とを聞き、定めしそれはか何かに似ていたことだろうと思いました。もっともこのM子さん親子にはS君もやはり交際しています。S君はK君の友だちです。ただK君と違うのは、――僕はいつも小説などを読むと、の男性を差別するためにをった男にすれば、一人をせた男にするのをちょっと滑稽に思っています。それからまた一人をな男にすれば、一人をな男にするのにもやはりまずにはいられません。現にK君やS君は二人とも肥ってはいないのです。のみならず二人ともき易い神経を持って生まれているのです。が、K君はS君のように容易に弱みを見せません。実際また弱みを見せないを積もうとも
4、しているらしいのです。 K君、S君、M子さん親子、――僕のつき合っているのはこれだけです。もっともつき合いと言ったにしろ、ただ一しょに散歩したり話したりするほかはありません。何しろここには温泉宿のほかに(それもたった二軒だけです。)カッフェ一つないのです。僕はこう云う寂しさを少しも不足には思っていません。しかしK君やS君は時々「我等の都会に対する郷愁」と云うものを感じています。M子さん親子も、――M子さん親子の場合は複雑です。M子さん親子は貴族主義者です。従ってこう云う山の中に満足しているはありません。しかしその不満の中に満足を感じているので
5、す。少くともかれこれだけの満足を感じているのです。 僕の部屋は二階の隅にあります。僕はこの部屋の隅の机に向かい、午前だけはちゃんと勉強します。午後はトタン屋根に日が当るものですから、その烈しいりだけでもとうてい本などは読めません。では何をするかと言えば、K君やS君に来てってトランプやにをつぶしたり、組み立てのをして(これはここの名産です。)昼寝をしたりするだけです。五六日前の午後のことです。僕はやはり木枕をしたまま、厚い渋紙の表紙をかけた「」を読んでいました。するとそこへをあけていきなり顔を出したのは下の部屋にいるM子さんです。僕はちょっとし
6、、しいほどちゃんと坐り直しました。「あら、皆さんはいらっしゃいませんの?」「ええ。きょうは誰も、……まあ、どうかおはいりなさい。」 M子さんはをあけたまま、僕の部屋のにみました。「この部屋はお暑うございますわね。」 逆光線になったM子さんの姿は耳だけにいて見えます。僕は何か義務に近いものを感じ、M子さんの隣に立つことにしました。「あなたのお部屋は涼しいでしょう。」「ええ、……でもの音ばかりして。」「ああ、あの気違いの部屋の向うでしたね。」 僕等はこんな話をしながら、しばらく縁先に佇んでいました。を受けたトタン屋根は波がたにぎらぎらかがやいてい
7、ます。そこへ庭のの枝から毛虫が一匹転げ落ちました。毛虫は薄いトタン屋根の上にかすかな音を立てたと思うと、二三度体をうねらせたぎり、すぐにぐったり死んでしまいました。それは実にっ気ない死です。同時にまた実に世話の無い死です。――「フライ鍋の中へでも落ちたようですね。」「あたしは毛虫はい。」「僕は手でもつまめますがね。」「Sさんもそんなことを言っていらっしゃいました。」 M子さんはに僕の顔を見ました。「S君もね。」 僕の返事はM子さんには気乗りのしないように聞えたのでしょう。(僕は実はM子さんに、――と云うよりもM子さんと云う少女の心理に興味を持
8、っていたのですが。)M子さんは幾分かねたようにこう言って手すりを離れました。「じゃまたほど。」 M子さんの帰って行った、僕はまたをしながら、「」を読みつづけました。
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